2008年10月30日木曜日

幻魚





突き出しに朱色のキノコが出て来た。
とろりとぬめりがあり、大型のナメコをシャキシャキにしたような、ちいさいけど気品ある味。
これは、山形あたりでは「いくじ」といい、野生のキノコで、高級品、あまり食べられない貴重品。地方によっては「網茸あみだけ」「落葉らくよう」とも呼ぶそうだ。

「今日はゲンゲが手に入りましたので、鍋です」
鍋が運ばれてきたが、元はいったいどうなっているのかと聞こうとしたら、さすが大将言われる前に持ってきた。
皿に乗せられて来たゲンゲは、白身の優しい顔をした魚だが、魚体の周りにまるでシェルターのように透明のゼラチンのようなもので包まれている。
後で調べてみたら、深海魚で、皮はやっぱりゼラチン質、幻魚(げんげ)とも書くようだ。
このゼラチン膜があるので、三枚おろしなんて出来ない、そこで輪切りで鍋に入っている。
ゼラチン質を落とさないように箸でそっと持ち上げて口に入れたら、とろりと、ぷよぷよが入ってきた後、中身は貴人のような白身。
皆でひと一切れずつ食べた後、とたんにあと何切れあるか、鍋に目が走った。
ここでも大将先を見ていた「大丈夫、お一人4切れずつあります」

2008年10月29日水曜日

すみれの朝食




「時の宿すみれ」の朝食は、メインの皿に丁寧に調理した料理が少しずつ9種類。
窓外は小川が流れ、温泉の蒸気が吹き出ている。
これから紅葉がきれいだろうな。

米沢では秋になると芋のこ汁、キノコ汁などでパーティーをするが、肉は必ず牛肉、牛肉が当たり前。
朝食にもこれが出て来た。
この芋のこ汁とご飯だけでいいのに、豪華な朝食だ。仕上げにメロンまで付いてきた。
今度は雪深いときに来てみようか。

2008年10月28日火曜日

一枚半のヒレステーキ






「時の宿すみれ」のステーキは目の前でシェフが焼いてくれる鉄板焼きスタイル。
ヒレ肉は、最初にテーブルに着いたときから目の前においてある。
冷蔵庫から出してすぐの肉をいきなり焼くと温度になじんでなく堅くなるので、室温にゆっくり戻していく。
前菜中間といろいろ食べている最中、目の前に鎮座している。
これ見ながら食べているだけで幸せ。

最終のステーキになる手前で同行者が腹いっぱいになってしまったようで、どうしようかと悩んでシェフに相談したら「それなら半分お持ち帰りになってください」
いいサービスですねー。

一枚半のヒレステーキを鉄板で丁寧に焼く。
厚い切り身だ。
一口大にカットして目の前の皿に乗っかったら、厚さと言うよりも高さ。
さあ、いくぞ!

仕上げは「やわらかすね肉とまいたけごはんの雑炊」

2008年10月27日月曜日

テールと松茸




牛のしっぽ、テールの煮込みは時間がかかる。丸一日煮込んでいるくらいだ。
イタリアンではトマトで煮込むことが多いが、和風だとどうなるか?
時の宿すみれ」で「テールと温菜のポトフ 松茸を添えて」が出て来た。
この温泉旅館は、米沢牛肉を扱っているところがやっているので、牛肉料理が主体。
肩やモモの一部など、一般に知られていない部位を和風に料理してくれるので、腹に優しい。そして締めくくりにヒレのステーキとなる。
薄味だが、テールの滋養がたっぷりとにじみ出たスープに、松茸が添えてある。
このまま冷ませばゼラチンになりそう。
小さなスプーンで一口飲んだら、松茸の香りが上品に含まれている。

わずかに加熱したような刺身が出て来た。
「いちぼと牛たんの湯引きのお刺身」
小さなのが二切れずつというのがいいねえ。
脂肪の甘みがとろりと舌に絡まる。

2008年10月23日木曜日

タマネギと茄子の天ぷら



タマネギでも茄子でも、天ぷらにするには普通スライスする。
しかしおいしさを閉じ込めるには厚い方がいいし、ブロックの方がいい。
でも厚ければ揚げるのが難しい。
表面揚げ過ぎで中は生になりかねない。
油の温度と時間のバランスが大変だ。
低温で、ローストするように揚げることになる。

この店のタマネギの天ぷらは、小タマネギを丸ごと揚げる。
揚げた後、半分に切って出てくる。
表面さらりと揚がっていて、中はタマネギの香りがじっくり残ったホクホク状態。

茄子は、縦四つに切った後半分にしている。
三角形。
中は茄子のしっとり感がそのまま。
「10秒違ったらだめだね」と板さんに言ったら「そう、微妙なところなんですよねー」

大きなエビが丸ごと状態になっている見事なかき揚げ。
半分はつまみで、残り半分は天茶でと、いつものわがまま注文。
半天茶、汁多め、腹に優しいねー。

2008年10月21日火曜日

焼き明太子



明太子は一般的に生で食べるが、本場の博多では焼いても食べる。
丸ごと網で焼くだけ。
中はレアかミディアムレア程度、あまり焼かない方がいい。
表面のカリカリ感と、じんわりと辛い中の両方を楽しめる。
これには九州の芋焼酎が合うなあ。

青菜が出て来た。
荒く、削り立てほやほやの鰹節がたっぷり乗っている。
鰹節そのものもこのまま高級なつまみだな。
独身の頃、汚く小さなアパートで、鰹節一本買ってきて、切り出しナイフで削りながらウイスキー飲んでいたなー。ウイスキー安物だったけど、鰹節は高級だったな。

2008年10月20日月曜日

鯛の焼きおにぎり茶漬け



広く浅めの丼に、軽く焼いたおにぎり、その上にたれに漬けた魚の切り身が櫓のように乗っている。
小さな土瓶と、柴漬けを一緒に持ってきた。
「鯛の焼きおにぎり茶漬け」

たれ漬け鯛のてっぺんから土瓶の出し汁を、崩れないように静々とかける。
鯛がうっすらと加熱され、表面が白くなった。
たれが出し汁で薄められ、熱くなり、丼に広がった。

鯛の山の縁をちょっとつまみ、焼きおにぎりの端を崩してその上に乗せ、一緒に口に入れる。
焼きおにぎりの香りが漬けた鯛とよく合っている。
これはつまみにもなるな。
最後に残ったのを、ズズズーっと飲んで、仕上げ終了。

2008年10月16日木曜日

10秒待ちのお椀



お任せ料理コースの終盤、お椀が出てきた。
汁椀ではなく、広め低めの黒色。
この店でお椀が出てくると注意が必要だ。以前、いきなり開けようとしたら止められた。蓋の絵が、そのまま裏側とお椀の内側につながっていたのだ。蓋を眺め、ゆっくり開けながら、中の絵まで楽しめるようになっていた。

案の定「十秒待ってください」
ゆっくり数えていたら「はい、もういいですよ、開けてください」
開けた蓋に吸い出されるように松茸の香りが舞い上がってきた。
鼻をお椀に近づけ、胸一杯に吸い込んだ。

ご飯の中に松茸が入っているので、ご飯の熱で香りが出、それがお椀の中で充満するまでの時間が十秒だったのだ。
ご飯の上にはカラスミが一枚トッピングされていて、色がきれいだ。
松茸を取り出し、ご飯の上に載せ替えて、ちょっと眺めて満足し、さあ、食べようか。

2008年10月15日水曜日

秋の鮎



笹の葉にくるまれたちまきのようなのが厳かに出てきた。
蒸したピーナッツが二つ添えられている。
ピーナッツを蒸したりゆでたりするのは千葉と静岡の習慣だが、ここは京都。
スライスした蓮根がからりと揚げられていて、その上に卵の黄身の味噌漬けが乗せられている。満月のようだ。

笹の葉を開けたら、卵ではち切れんばかりに太った鮎が出てきた。
貫禄のある鮎だなー。
秋の鮎だ。
腹の所をかじったら、破れそうに突っ張っていた皮がはじけ、歯が卵の中にざくりと食い込んでいった。

2008年10月14日火曜日

モロコの肝煮、唐揚げ




尻高貝がたくさん出てきた。
楊枝で身を出すとき、回しながら抜き出すとうまくいく。
うまく抜けると、先っぽのおいしいところがうれしい。

下田の「新田」では、壁いっぱいに1メートル以上ありそうな魚拓が貼ってある。
魚の横綱だな。
これはモロコ。
クエとも言うし、九州に行くとアラとも言う。
高級料理の食材で、釣り人にとっては夢の魚。
この本体はなかったが、冷凍保存しておいた肝が出てきた。
最初は肝煮、そのあと唐揚げ。
海をちぎって食べているみたい。

2008年10月10日金曜日

下田のヤガラ



ながーいながーい、新型の新幹線みたいな魚が出てきた。
これはヤガラ。
唇が胴体の半分ぐらいありそうだ。
いったいどんな泳ぎ方をしているのだろうか?
これは刺身で食べる。
白身も白身、真っ白な刺身だ。
実においしい。
鱧、鯛、イカを融合したみたい。
ヤガラは松江でも出されたことがある。
全国的にいるのだろうか?
食材辞典で調べたら、珍しい魚で、一般のマーケットには出ないようだ。

2008年10月9日木曜日

下田のクロムツ



小田原で夕方仕事が終わり、一日おいて浜松なので、東京に帰らず、伊豆下田に潜伏することにした。
熱海から東伊豆の海岸沿いに走っていくと夕暮れになり、海からの風が心地いい。
林の中に入ると、虫の音がリーリー。ここら辺の虫は潮騒に負けじと大きな声で鳴く。
下田東急ホテルは前回もずらかって、すっかり気に入ったリゾートホテル。
今回、ここはなかにし礼さんと石原裕次郎さんが出会ったホテルだと知った。
レストランの古株そうな人に聞いたら、このホテルは50年経ち、裕次郎さんはホテル下の桟橋にヨットを着けて時々来ていたいたそうだ。

ホテルに着いたのが8時、すぐに前回行った居酒屋へ。
新田
私が二回目だというので大将熱烈歓迎。
「すごいの用意しておきました」

どーんと出てきたのはクロムツ。
「これを焼く」というので「全部じゃないだろーな!」
うれしいことに、カマ、エラの、骨とゼラチン複雑入り組んだところを焼いてくれた。うれしいねー、大将おいしいとこわかってるねー。

2008年10月8日水曜日

鱧の終わり



秋になると鱧(はも)の時季は終わり。
夏は落としが多いが、秋になると焼き鱧が多くなるようで、そして土瓶蒸しになってくる。
まずは焼き鱧。
わずかに焼き色が付いていて、香ばしい。
骨切りされた白身が、花のように開いている。
ちょっとだけ酢味噌がつけられている。
口に入れると、ほくほくと、ふんわりした食感。

次は土瓶蒸し。
鱧と松茸が一緒になる時季だけの料理だ。
まずはスープだけ飲む。
スープがつまみになるなんて、この料理ぐらいかな?
スープが中にまだ十分残っているところで蓋を開け、松茸の香りがしみこんだスープをたっぷり吸った鱧を食べる。
鱧の松茸風味だ。

2008年10月6日月曜日

マグロづけにぎり




この店の名物、戸井のマグロが漬けで出てきた。
マグロの漬けは、もっとも単純には切り身をわさび醤油につけただけ。

江戸時代、マグロが食べ出された頃からの方法は、柵(さく)を醤油につけ、一日半ほどしたのを切り身にして、辛子で食べた。わさびは当時効果だったので辛子だったそうだ。これは我が家でもやる。

出てきた漬けの握りは、柵ではなく、切り身でつけたものだ。
赤身が小さめの舎利にとろりとのせられている。
手前の方に切り身が片寄せて乗せられている。
つまみやすいようにかな?
つまんで、逆さにし、切り身のほうを舌の上に乗せる。
15℃ほどの、あまり冷たくない程度の切り身が舌の上にぺたっと乗る。
漬けの風味が舌に広がる。
噛み出すと、元は半透明だったろう赤身に綴じ込められていたジュースがにじみ出てくる。
薄味の酢飯が崩れ広がる。
マグロと酢飯の粒を一緒にゆっくりとかみしめていく。
強い海流の中をマグロが高速で泳いでいる姿が目に浮かぶ。

こんなマグロを育ててくれた津軽海峡に感謝。
捕ってくれた漁師に乾杯。
豊寿司の大将に拍手。

握りは、コハダ、穴子、イカと続き、締めはマグロ漬けもう一つ。
外に出たら、秋風さわやか。

2008年10月1日水曜日

ボタンエビの卵


北海道のエビといったらボタンエビ。
甘エビよりも遙かに大きく、味は夏場の富山の白エビのようにとろりとしながらコリッとした食感がある。
ボタンエビのすばらしさは卵で、たっぷりとある。
ボタンエビの刺身の上に、卵が乗せられている。
優しい色のキャビアといったところかな。